『ジャッカロープ』

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学園刑事物語 天神四区 四・五 『ジャッカロープ』 第一章 岩陰と森と山  俺は、墓参りに行こうと確かに言った。  俺は高校一年、印貢 弘武(おしずみ ひろむ)、代理出産で生まれ、遺伝子上の母と、産みの母がいる。でも、産みの母は、遺伝子上の父、佳親の母でもあるので他人ではない。  俺は、最近まで母が代理出産していたなど知らなかった。佳親も、俺の遺伝子上の母、季子もその事実を知らなかった。  産みの母の墓参りに、季子の両親、俺の祖父母を誘った。佳親が行くというのは予測していたが、季子も征響も行くと言い出した。そこに、俺が名護と藤原を誘ったので、今度は秋里と倉吉まで来ると言い出した。  それで終わりかと思っていたら、夫婦喧嘩をした藤原の父、将嗣も来ると言い出し、マイクロバスと運転手の手配までしてくれた。 「……何のツアーですか……」  あり得ない状況だが、墓参りだというのに、大人数になりつつあった。  そこに、商店街からも行きたいという人が数名加わろうとしていた。かつて母が天神で暮らしていた時の、友人たちであった。  学校の教室で、俺は机で眠っている相澤に話しかけていた。相澤は、学校に潜入捜査で来ている刑事であったが、その事実は、ここでは俺しか知らない。潜入捜査と言っても、学校内で発生する事件、事故をリサーチしているので、特定の事件を追っているわけではない。 「マイクロバスでは、もうムリでしょう。観光バスですよね」  小さな寺であるので、観光バスは駐車できるだろうか。事前に確認が必要だ。 「……俺も行こうか?」  又、増えるのかと思ってから、考え直した。 「相澤さん、車を出してくれるのですか?」 「そう。嫌か?」  相澤も、俺が行かないと駄々をこねるのを心配しているのだろう。皆、善意であって、悪意ではない。でも、行き過ぎるとやはり悪なのだ。 「ありがとうございます。一緒に名護もいいですか?」  名護だけ、あのバスに乗せるわけにはいかない。 「ふうん……名護でいいのか。印貢は、名護を母に紹介したいの?」  俺は首を振る。藤原は父親の将嗣がマイクロバスに乗るので、お目付け役もあるだろう。こっちと行きたいと言えば、相澤に藤原も一緒にと頼む。 「いいえ。名護には色々と迷惑をかけているので、伊勢海老フライと、焼き魚を食べさせたいのです。おいしいです」
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