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「……そうなのだよね。私も何度も探しに来たけど、消えてしまってね」
そんな馬鹿な。モモウサは今、下に消えた。
人が歩けるほどの大きな穴であるのに、どうしても見つからない。
「いいよ。友人の招きでしか見つからないのでしょう。でも、君達は来た。それでいいでしょう」
住職は、再び車で寺まで送ってくれた。
先ほどの海鮮料理の店で、皆が宴会状態になっていると、希子と祖父母は、どうしても印貢の仏壇にも挨拶したいと言い出した。
印貢の家は、母の弟が住んでいる。母には弟が二人いたが、一番下の弟、俺を引き取ると言ってくれた人とは仲が良かったが、実家の弟とは疎遠であった。
母の一歳年下と言っていたので、佳親の親という歳になる。
「いるかな」
ほとんど電話も掛けた事がない。
「もしもし、印貢 弘武です。兄と墓参りに来たのですが、仏壇にも手を合わせたいので、寄ってもいいですか?」
電話先でかなり慌てていた。
「本当に弘武か?」
「はい、ご無沙汰しております」
来てもいいという。
母と仲が悪かったといっても、生前は来て海で一緒に遊んでくれた。母が亡くなる前に、大喧嘩したのだ。
印貢の実家は、兼業農家で叔父は農協に勤めていた。堅実な人で、親父という貫禄のある人であった。母とはよく口論していたが、俺には優しかったようにも思える。
俺を引き取るとは決して言わず、下の弟とも大喧嘩になった。だから、俺も頼ってはいけない人と認識していた。
大きな庭に相澤が車を止めると、家の中から叔父が走ってきて、車を降りる間もなく俺を抱き上げた。
「弘武!大きくなったな!」
俺は高校生で、それを高い高いと持ち上げる腕力が凄い。
「そっちは、征響か?」
季子は、酔った佳親も連れてきていた。
「で、その酔っ払いは佳親か……」
叔父は年を取っていたが、昔の逞しい面影のままであった。
「そちらの方は季子さんと、ご両親。もしかして、真実を知ったのでしょうかね。家にあがってください」
叔父と、叔母が料理を作って待っていた、俺は仏壇に手を合わせると、再び母の手紙と遭遇した。
「これが、俺達の喧嘩の原因だよ」
母の手紙には、自分が代理出産をしてしまい、俺は佳親の子供であると告げられていた。叔父は、佳親に真実を言おうとして、大喧嘩になったという。
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