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「季子さんに、一刻も早く真実を伝えた方がいいと言ったのですが、姉は季子さんは必死で治療しているのだから、子供が産まれたら祝福して、その時は死ぬまで真実を言わないといいました」
それで、母が亡くなった時は、今度こそ佳親に渡そうとしたが、下の弟は姉の意志を尊重すると俺を引き取った。
そんな経緯があったなど、俺は全く知らなかった。
「姉は自由な人でした。久芳さんを困らせて、飛びだして。弘武を一人にしてしまった」
「私どもは、大変感謝しております」
俺が料理に手を出すと、季子が皿に盛ってくれた。俺は皿を持つと、外に居た相澤の元に走った。
どうも、俺が居ると大人の話ができない雰囲気でもあった。季子は慌てて、相澤にも料理を持って行った。
「すいません」
印貢の叔母が、笑顔で沢山の料理を俺に持たせてくれた。
「相澤さん!」
相澤は眠そうにしていたが、庭の鶏とじゃれていた。
「美味しいですよ。一緒に食べましょう」
相澤の車で来てしまったので、相澤が巻き込まれてしまった。祖父母は何を話したいのか分からないが、どこか深刻そうであった。
「この鶏、美味しいのか!」
「持ってきた料理の話です!」
ここの鶏は、卵を採るためのものなので、食肉ではない。
庭のベンチに料理を置くと、鶏が寄ってきていた。
「いいのかここにいて。印貢、お前の話をしていると思うよ」
「俺は、どうにもならなないよ。今のままでいい。佳親兄さんの弟でいい」
俺は、料理を食べながら、鶏にも与えてみた。
「でも季子さんは、印貢を息子として育てたいのだろう」
佳親は、季子の気持ちを知っているのだろう。
「そうだとしても、俺は今のままでいい」
今のままで十分幸せで、それ以上は望んでいない。
鶏が一羽、空を飛んでいた。鶏も飛べるのかと見送ってしまってから、もしかして逃げられたのかと少し慌てた。鶏を追いかけて、家の裏山に行ってみると、そこには又兎が歩いていた。
「又、兎……」
白い普通の兎であったが、檻にも籠にも入っていない。山の中を兎が走っていた。
「野生にしては、白いよね」
夏毛の兎は、薄い茶色だったような気がする。
「印貢、何と話をしている」
相澤も追ってくると、兎を見つけた。
「これは可愛いね」
手の平サイズで、かなり小さい。しかも、毛並みが見事な白で、輝いているようであった。
「俺は昼のモモウサもいいけどね」
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