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愛洲は、コーヒーを飲みながらくつろいでいた。その間にも、愛洲には幾度も電話が掛かってきていた。そのどれもが、アイスとは全く無関係のような気がする。
そっと相澤に、まさか愛洲は刑事か何かなのかと聞いてはみたが、違うとの答えであった。
では逆なのかと、藤原に問い合わせてみたが、そもそも藤原は愛洲をアイス屋としか知らなかった。
「愛洲さん、次の工程に入ります」
「はいよ」
又、愛洲は電話でどこかに連絡していた。
電話の内容的には、仕入の問い合わせであった。しかし、鉛十キロなど、どう間違ってもアイスの原材料ではないものばかりであった。愛洲にも、裏の顔があるのかもしれない。
「ほら、印貢。もう深夜になるから帰れ。佳親さんに見つかると、俺が殺される」
シンデレラでもないが、十二時には帰れと言ってくる。
「はい」
店の外に出ると、参道には誰もいなかった。十二時にお参りしていたら、それこそ丑の刻参りの何かかもしれない。
そんな気分で歩いていたせいか、木を打つ音が聞こえてしまった。
丑の刻参りなのだろうか。ついつい、音のする方向に歩いていると、いつの間にか、横に愛洲も歩いていた。
「何の音?これ。俺も家に帰ろうとして、気になった」
愛洲は、天神でアパートを借りて住んでいる。駅前近くのアパートであったので、反対方向ではある。
音の方向に進んでいくと、塀の中から光を見つけた。この塀の向こうは、饅頭屋の自宅ではないのか。
そっと上から塀を覗くと、男が一人で木型を直していた。
「……仕事だったね」
原因が分れば怖い事もない。愛洲が笑っているので、俺も笑って誤魔化した。
「でも、印貢は怖かったら、逃げるとか、誰かを呼ぶとかしないといけないよね。いつも、こうやって首を突っ込んでいる」
その通りであった。俺が項垂れていると、愛洲が俺の頭を撫ぜた。
「まあ、天狗ってそういう生き物みたいだからね。常に興味の塊」
愛洲が笑いながら、家に帰って行った。
俺は愛洲の後ろ姿を見送ると、自宅へと戻る事にした。しかし、家の前の階段を登ろうとすると、そこには佳親が待っていた。
「だから、部屋に監視カメラがあると言ったろ。いないというのも、直ぐに分かる」
やはり、監視カメラも止めていなかったのか。
「どこに行っていた?」
「アイス屋です。夜の仕込みの手伝いで、バイトしています」
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