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佳親は部屋に入ると、バイトの理由を聞いてくれた。
「名護に奢りたいのか……」
「はい。すごく、おいしいので食べて欲しいかなと思いまして」
自分で稼いだお金で、名護にご馳走したいのだ。名護は既に自立していて、自分で生活費も稼いでいる。そんな名護に、親の保険金で奢りたくはない。
「……まあ、理由は分かった。でも、無理するなよ」
佳親は、名護ならば、いつまでも待ってくれるだろうし、何の金だなど気にしないという。佳親も名護に、かつての親友である桧山の影を見ているのかもしれない。
でも、俺にもプライドがある。
しかし、名護のためにアルバイトしていると、尾ひれまでついて藤原に伝わってしまった。
翌日、愛洲アイス屋のアルバイトを終えて帰宅すると、部屋で藤原が待っていた。
「……本当だったのか。弘武が名護のためだけにバイトしている……なんて」
どこで、名護のためだけと限定になったのだろう。本当に面倒臭い。
「由幸……」
俺が着替えていると、じっと藤原が見ていた。
「俺の天狗でいいよな……」
何度も藤原は確認するが、そんなに、俺が信用できないのか。
「俺は、名護のためではなくて、皆で食べたいからバイトしたの」
俺の言葉など信用しない藤原が、畳に座ると、前に座れと手で畳を叩く。俺が座ると、藤原は監視カメラにタオルを投げた。そもそも、俺も腹が立って、妨害電波を用意した。佳親には、映像は見えていないかと思う。
藤原が、かなり勢いよく俺を畳に押し倒す。
「うわ!」
俺の背が強く畳に当たってしまって、せき込みが止まらない。藤原は押し入れを見た。
「布団出そうか?」
ここで、布団を出してしまったら、まるで、するみたいではないのか。俺が慌てて首を振ると、真っすぐな藤原の目が確認してきた。
「俺が嫌か?」
嫌とかの問題ではない。キスとかはいいが、寝るとなるとそれは別問題であった。
「嫌とかではなくて……」
これは、どう説明したらいいのか分からない。
「大丈夫、弘武がもう少し大人になるまで、本番はしないつもり。俺も、怪我もさせたくないし、無理もさせたくない。それに、弘武、子供だし。手に入れたいのは、弘武の全部で体だけでもないし……」
同じ年の藤原に子供扱いされるのも癪に障るが、藤原はとにかく優しい。こういう藤原の優しさが、モテるコツなのだとも思う。
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