彼方の夢

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 目が覚めたとき、俺はただぼんやりと天井を見つめていた。のっそりと起き上がって窓の外の景色をちらりと視界に入れてまた室内にそれを移す。  何だかひどく穏やかな気分だ。こんなに心地いい気分になれる夢を見たのはいつぶりだろうか。もうここ数年、そんな気分は味わっていない。  あんなに平和で平凡で幸せな日常なんて、確かに経験しているはずなのに、今はもう遠い昔のようだ。  今の俺には下の名前で呼んでくれる可愛い彼女どころか、名前で呼んでくれる家族も、名字で呼んでくる親しい男友達もいない。それどころか本名を名乗るような信頼出来る相手もいない。  何気なくカレンダーを見てはそこに書いてある文字を見つめる。昨日の枠には「ゾンビ三体撃破」とだけ書かれており、今日の枠には「休み」の一言。
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