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ゾンビという非現実的な存在が現れてから数年。世界は一変してしまった。家族も友人も近所の人も、みんな奴らに殺された。奴らはゾンビのくせに知能があり、奴らに捕まった人間は喰われてゾンビにされるか、人間の情報を吐かされるかの二択。
みんな殺されたくないから、自分の身を守るために本名を隠し、偽名を名乗るようになり、廃墟に隠れ住むようになった。
こんなことになっていなければ、俺は今もあんなふうに穏やかで幸せな日々を送って、将来の夢なんて考えては友達と馬鹿みたいに笑っていたのだろうか。
今となっては、そんな夢、考える方が残酷なのかもしれない。
けれどせめて、夢の中でくらいは幸せに浸ってみても罰は当たらないんじゃないかと思い、俺は再び身体をベッドに沈めて目を閉じた。
窓の外に広がる黒煙と噎せび泣く声、充満する血の臭い。それら全てから目を逸らすように、俺はそっと意識を飛ばした。
そのとき誰かに耳元で何かを囁かれるのを、ぼんやりとした頭の中で聞いた気がしたけど、きっと俺が幸せな夢に浸り始めたときにはもう、忘れているだろう。
――おやすみ。きっと目が覚めたら、狂おしいほど残酷な幸せが待っているから。
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