第1章 *社畜の成れの果て*

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ドア横に立つ俺を見て50前半くらいのおばさんが言う。 「フラッフラしてるし顔色悪すぎ。大丈夫かいな」 すごい形相だから何を言われるのかと身構えたのだが、どうやら杞憂だったらしい。 「あ、ハイ……」 力なく答えると、おばさんはため息をつき、座席を立って俺の方へ向かってきた。 早速空いた席を狙う中年サラリーマンをおばさんは睨む。 そして一言。 「兄ちゃん、あんたが座りなさい」 「……へ?」 「いいからいいから!」 戸惑う俺を強引に座らせ、おばさんは次の駅で降りていった。 「あったかい」 おばさんに譲ってもらった座席には微かに彼女の 温もり が残っていて……少し笑ってしまう。 ありがとう、と言い忘れたことを悔やみつつ、いつの間にか俺は意識を手放していた。
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