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 駄菓子。それは、子供でも手の届く存在。  駄菓子。それは、大人になっても、ふいに子供に戻りたくなって、つい買ってしまう存在。  安価だけど、その分庶民にも近寄りやすいその存在。僕の頃は、確か猫を店に歩かせていたおばあちゃんが店員だったっけな。  欲を言えば綺麗なお姉さんが売ってくれるスーパーも良かったんだけど、お母さんは僕がスーパーへ行くと、何時もアレが欲しいコレが欲しいって駄々をこねるから嫌だと言った。だけど、そんなお母さんでも良いよって言って小銭を渡してくれたのが、あるいて五分の駄菓子屋さんだった。  一時は都会に夢を馳せて旅立ったものの、鳴かず飛ばずの日々に嫌気が差し、三十五になって黒かった髪に若干の白髪も混じってきたところで、僕は故郷へと戻って来た。  運が良いことに、幼馴染が営んでいる事務所で雇ってもらえることになったので、戻って来ることに何の躊躇いも無かった。両親も、先の見えない歌手よりかはマシだと喜んでいたようだしね。  家へ帰って来て、都会とは違うゆったりとした時間を過ごしていると、ふと子供時代のことを思い出した。  アレも欲しい。コレも欲しい。と駄々を捏ねたスーパーや、デパート、そしておもちゃ屋さん。  それらは皆、今は違う店が建っている。時代の流れだ、仕方ないよな。  だけど、一つだけ残っているものがあった。  そう。それこそが、駄菓子屋さんの”おくりもの”だ――。  ……だったのだけど。 「らっしゃいやせー」  駄菓子屋さんおくりものの主人は、どうしたことか、若くて器量の良いお兄さんだったのだ。それも、とても愛想が悪く、目の下にはクマが出来ている。 「冷やかしなら帰って下さい」  黒髪、黒服、そして黒い靴。見ているだけでもどんよりとしてくる恰好の主人は、しっしと僕を手の甲で払う。 「い、いや。僕は以前、此処に来ていた者でね。ほら、前に此処にいたおばあちゃんいたろ? トヨさん。あの人の時の」 「ああ、ばあさんならとっくのとうに死にましたよ」 「わ、分かるよ。当時でさえ九十九歳だったんだから……。生きてたらそれはそれで怖いよ」
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