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あっそ。と主人は気怠そうに返事をする。何て愛想の悪い主人なんだ。呆れと同時に、当時に思い出を壊されたような気がして、ショックを受ける。
すると、呆然と立ち尽くす僕の後ろから、幼い声が飛びかった。
「おにーちゃん! こんにちはー!!」
「こんにちはー!!」
振り返れば、そこにいるのは赤やピンクのランドセルを背負った、可愛いらしい女の子達がいた。
「こんにちは。おや、元気が良いねぇ」
僕がにこりと笑うと、女の子達もにこり。おやおや、微笑ましいことだ。
思わずはにかみながら、主人へと視線を戻した。そこで、僕は驚愕の光景を目にする。
「ふ、ふふ……みさきちゃん、みゆきちゃん、ちあきちゃん、お、おはようなのだ」
主人はその爽やかな笑みとは対照的ないやらしい口調と手つきで、三人に近づこうとしているのだ。
「ちょ、ちょっとちょっと」
思わず僕が三人の前に立って手を広げると、主人はハッと我に返り、首をブンブンと振る。そして、レジ前の椅子に座り、一言。
「冷やかしなら帰れよ」
今更何言っても遅いよ。僕は思ったものの女の子達は、「ちゃんと買ってくよん♪」と尚も笑顔。そうだよな、まだ小学生だもんな……それも、見たところ一、二年生だろう。こりゃあ、親御さんにしたら特に可愛い時期だろう。まぁ、コイツにとってもだろうけど。
よん♪ の破壊力によるものだろうか。主人は顔を両手で覆う。しばらく見ていると、その手の隙間から赤い液体が徐々に流れてきた。
「おにーちゃん、これ一つ!!」
女の子達が主人の方を振り返ったので、僕は反射的に主人を隠した。女の子達が困ったように僕の間から主人を見ようとするので、僕は彼女達の動きに合わせて必死に主人を隠す。
「おじさん、おにーちゃんいないとお金払ってもらえないよ」
女の子達からご尤もな指摘。確か……お菓子の値段はだいたい覚えているな。
「カツは三十円、ガムは十円で、四十円だよ」
僕が言うと、女の子達は声を揃えて、「お~!!」と拍手。その後、僕に四十円を払うと、じゃあねと去っていった。
女の子達がいなくなった後、恐る恐る振り返ってみる。するとそこには、白目になって両鼻から血を流す哀れな男の姿があった。……むごい。
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