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「おにーちゃん! これあげる!!」  みさきちゃんが良知に一つのガムを手渡した。赤色の、丸くてどこか見覚えのあるガムだ。 「え、これおにーちゃんにくれるの? 有難う」  この黒髪のみさきちゃんと言えば、僕と良知が初めて会った時にいた女の子の一人だが、彼女は良知と隣の家で、彼女が生まれた頃から知っているのだそう。だから、まだ他の子よりこみ上げる感情を抑えられるとか何とか。……こみ上げる感情とは、一体。  それはさておき、みさきちゃんは僕にもガムをプレゼントしてくれた。ちょっと含みのある笑みを浮かべながら。 「僕にも?」 「うん、おじさんもここの店員さんでしょ?」  成程。何時も僕が此処にいるから、店員と勘違いされているらしい。僕はただ、君が目の前のお兄さんに襲われないか心配して来ているおじさんなんだけどな。良知に目をやると、良知は言わないでくれと言わんばかりに両手を合わせる。 「おじさんはね、ただこのお店が大好きなだけなんだよ」 「そうなの? じゃあみさきと一緒だ!!」  これは、ロリコンで無くとも可愛らしいと感じるな。案の定、良知の方は僕に向けていたはずの拝みポーズをみさきに向けていた。 「だったら余計にあげる! みんなでせーので食べようね!!」 「分かったよ。有難うね、みさきちゃん」 「それじゃあ、せーのっ!」  みさきちゃんの合図の後、全員同時のタイミングでガムを放り込む。そしてゆっくりと噛みしめる。  懐かしい。甘くて美味しいな。このガムは、確か三つ入りで、一つが酸っぱいやつだったような……。  と思って残りの二人を見るものの、二人ともリアクションが変わることは無く。 「みさきちゃん、甘い?」 「……うん、甘い。おじさんは?」 「甘いよ」  みさきちゃんと僕で、良知の方を見る。良知はニコニコとしながらガムを噛みしめていたが、特に反応は無い。……気持ちは分かるけどな。このガムは、子供に対する優しさと愛情から、飛び上がる程のすっぱさは無いのだから。 「ん? どした?」  キョトンとしていた良知だが、やがて僕とみさきちゃんの視線の痛さを感じて思い出したのか、突如大きく口を開き、「ギィエエエエエ!!」と、気持ち悪い怪物の如く鳴き声を披露してのたうち回った。  ……偉いぞ、おにーちゃん。
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