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「おにーちゃん、私ヤングじゃないドーナツも食べてみたい」
みさきちゃんは、ヤング系女子から大人気の小さくて可愛らしい見た目のドーナツを口に放り込んだ。
僕はこのヤング系なドーナツが大好きなのだが、子供って何かと大人に憧れる部分があるからなぁ。たまには、アダルトな雰囲気になりたい時もあるのだろう。……って言うと何か語弊がありそうだが、つまりは、みさきちゃんは今日は背伸びをしたい日なのだ。
みさきちゃんからの唐突な発言に、良知は目を見開く。そして、人生の革命かと言う程の衝撃が突き抜けたらしく、良知は慌てて椅子から降り、みさきちゃんの前にしゃがみ込む。
「みさきちゃん、それは本当か?」
「うん」
「……そうか」
良知は立ち上がり、僕の方を見る。それも、精悍な顔つきで。どうしてそんな顔をしてみたのか疑問に思っていれば、すぐに突拍子の無い発言が飛んでくる。
「聡、俺はヤングじゃないドーナツを作る旅に出る。だからその間、店番を頼む」
「……は?」
僕と良知の間に、妙な間が出来る。一分後それを取り払うと、僕はいやいやいやと手を振る。
「継ぐわけないだろ! これでも一応働いてるし」
「え、おじさんがお会計するの?」
「ああ、少しの間、おにいちゃんは旅に出るからね。君を大人にする、魔法を探しにね」
ドヤ顔で言ってのけた良知。それを恥ずかしげも無く言えるお前が凄いよ。とても寒いし。
みさきちゃんには、このクサいセリフの意味が分からなかったのだろう。曖昧に、「ふーん」とだけ答えると、今度は僕に向かって笑顔を向ける。
「へぇー。でも、おじさんが店番でも楽しそうだね!」
「え? そう?」
「うん!」
僕としても予想していなかった言葉に、かなり驚く。そして、ちょっと満更でも無い気持ちになる。
駄菓子屋って儲け無さそうだけど、こうして可愛らしい子供と触れ合えるなら、なっても良いのかな……。
なんて思いかけていると。
「やっぱやーめた! おにーちゃん行くのやーめた!!」
良知は大声で子供のように喚いた。
「馬鹿だな、俺がお前の居場所を奪うはずないだろ」
俺が笑うと、みさきちゃんも笑ったのだが、最後に一言。
「でも、本当におじさんが店番でも良かったんだけどなぁ」
この一言で、良知の心がポッキリ折れたのを見た。……やはり子供は残酷だな。
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