第1章

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「……金木犀の香りがする」 思わず手の甲で唇を押さえた。 「あれは良くない、 晴明」 感情のない声で言われて晴明がむっとした顔になる。 「お前には関係なかろう」 硬玉の瞳でじっと見返され、 分の悪い晴明が視線を逸らした。 「お前ほど力のあるものが、 式に心をかけるのは良くない」 「余計なお世話だ」 ただの戯れだ、 と言い訳のように晴明が呟く。 「路傍の石でも、 拝み続けていれば神にもなると。 そう言ったのはお前であろう」 半月の朧な光に照らし出された、 額に浮かぶ紅い印。 「何を馬鹿な事を……花が散れば終いになるだけだ」 言い捨てた晴明が母屋に戻っていく。 「ただの花でも――願えばひとにもなるものを」 月に向かって腕を伸ばす。 広げた指先を見つめて春花が呟いた。 月光の下、 金色に輝くように咲く花を春花は物思わし気に見つめていた。
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