4人が本棚に入れています
本棚に追加
「……金木犀の香りがする」
思わず手の甲で唇を押さえた。
「あれは良くない、
晴明」
感情のない声で言われて晴明がむっとした顔になる。
「お前には関係なかろう」
硬玉の瞳でじっと見返され、
分の悪い晴明が視線を逸らした。
「お前ほど力のあるものが、
式に心をかけるのは良くない」
「余計なお世話だ」
ただの戯れだ、
と言い訳のように晴明が呟く。
「路傍の石でも、
拝み続けていれば神にもなると。
そう言ったのはお前であろう」
半月の朧な光に照らし出された、
額に浮かぶ紅い印。
「何を馬鹿な事を……花が散れば終いになるだけだ」
言い捨てた晴明が母屋に戻っていく。
「ただの花でも――願えばひとにもなるものを」
月に向かって腕を伸ばす。
広げた指先を見つめて春花が呟いた。
月光の下、
金色に輝くように咲く花を春花は物思わし気に見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!