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sideー翔
俺は、昔からあいつが嫌いだった。まぁ今でも嫌いだが
やつは昔から全てを手にしていた。容姿に、頭脳に、運動に。
父親は社長で母親は元芸能人
恵まれすぎた環境で育ち、恵まれすぎた才能を持っていた。
出会った時は、羨ましいと、憧れる程度の存在だった。
だが、一緒にいる機会が増えれば増えるほど、こいつの全てが中途半端で何一つとして中身の入っていない姿に疑念を覚えていった。
そして、ある一つの出来事が俺があいつを嫌う決定的な理由になる。
7年前、俺と奏汰の他にもう1人俺にとっては親友と呼べる仲間がいた。
名前は薫香(トウカ)
当時はまだ奏汰をここまで嫌うほどではなかった。3人で学校の帰りに遊び、話し時に喧嘩し楽しいと思えた。
しかし、ある時あいつのくだらない正義感によって。薫香は死んだ。
学校の帰り道、道路を挟んだ向かいに女の子が男の子数人に囲まれ、いじめを受けていた。
あいつはいつもながら止めなくちゃ!と走り出した。すぐ側に信号があるにもかかわらず、そして俺と薫香の制止も信号も、無視して。
そこへバスが速度を落としきれないまま接近。とっさに薫香が身を呈して奏汰を庇い、二人まとめて跳ね飛ばされた。
奏汰を庇うように薫香がバスとぶつかった事で、もろに衝撃を受け、頭部を損傷。すぐさま病院へ搬送されたが……
即死だった。
あいつがまともな状況判断ができていれば、周りがしっかり見えていればあんな事にはならなかった。
薫香を殺したのは紛れもなく、あいつだ。
許せなかった。才能も頭脳も容姿も全てを持っているこいつが中途半端な心で仲間を殺し、今でさえ、同じようにその中途半端な正義感を振りまいていることに。
薫香の死が。薫香が救った命が、全て無駄に思えてしまうほど……
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