Black stone

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―――5年という月日は、短いようでとても長いものだった。 彼の「おやすみ」から今まで、まるで一生分の時間が詰まっていたのではないかと思うほどに。 冷たいベッドに身体を預け、枕元にあるブラックストーンに手を伸ばした。 ライターに指をかける。 火をつける。 匂いが広がる。 煙を吸う。 深く深く吸う。 ……肺に入れる。 “葉巻は肺に入れるものではない”理由を私は知らない。 けれど、煙草にしろ葉巻にしろ、身体に悪いということに変わりはないだろう。 (これは、自殺) ゆるやかな自殺。 吐いた煙を鼻に入れる。甘ったるい匂いが鼻の中を支配し、同時にあの時の彼の笑顔を網膜の裏に浮き出させる。 吸い終わったブラックストーンを灰皿に入れる。 唇を舐める。 「……甘い」 彼のキスの味。 これをあと何回繰り返せば彼に会えるだろう。 私は毎日ゆるやかに、確実に死に近づいていく。……全ては彼にまた会うため。 電気を消し、眠りについた。ベッドは広く、冷たかった。
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