5人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、煙草って好きじゃないのよね」
いつもの朝、なんとはなしに呟いた。
爽やかで明るい朝の匂いと眩しく照らす朝日に包まれた、少し大きいベッド。
その上にふたりの男女が並んで横になっている。
「そうなんだ」
言いながら、彼はおもむろに枕元に置いてあったブラックストーンに手を伸ばし、ライターで火をつけた。
折角の柔らかな朝が、煙の匂いに支配される。
「言ってるそばから吸うのね……」
軽く呆れながら、彼の吐いた煙を鼻に入れてみた。けほ、と軽くむせてから、鼻の中に充満する甘ったるい匂いに胸焼けしそうになる。
それでも負けじと2回、3回繰り返し吸っているうちに、鼻が麻痺して匂いがわからなくなった。
「嫌がりながら君も吸ってるじゃないか」
気が付けば短くなっているブラックストーンを灰皿に押し付ける。シュ、と切ない音をたてながら、火は段々と小さくなり、消えていった。
「この匂いは好きなの。煙いのは嫌いよ」
健康にも悪いしね、と囁きながら、私は彼の胸、肺のあるであろう位置にキスをした。
そんな私を見て、彼は軽く笑いながらブラックストーンの箱をちらつかせる。
「これはね、正確には煙草じゃないんだよ」
彼が箱に書いてある小さな文字を指差す。
私はそこに目をやった。
「……葉巻?」
最初のコメントを投稿しよう!