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彼が言うには、葉巻は香りを楽しむものであって、肺に煙を入れるものではないらしい。……もっとも非喫煙者である私にとっては、煙草も葉巻も大して違わないと思うのだけど。
彼は持っていた箱を枕元に戻し、私の頭に手を伸ばしてきた。
「それに、」
唇が重なる。
これは―――
「甘い」
彼のキスが、彼の唇が、とても甘い。
「ね、いいでしょ」
満足そうに笑って、起き上がる。
そういえば、彼は今日仕事だと言っていた。
「そろそろ支度をしよう。君は今日は休みだったっけ?」
「ええ」
「じゃあゆっくり寝てるといい。僕はぼちぼち出て行くよ」
おやすみ、なんて、今の時間に似つかわしくない言葉を残して部屋を出て行った。
そんな彼の背中に小さく「いってらっしゃい」と呟き、少し広くなったベッドを寂しく思いながらゆっくりと起き上がる。
―――なんだか目が覚めてしまった。
「私も起きようかな」
まだ彼のぬくもりが残るベッドを片手で撫でる。
今日の夕飯は何にしようか、彼は何が食べたいだろうか。そんなことを考えているだけで幸福感に包まれる。ああ、今、幸せだ―――
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