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「・・・・祐一郎が顧問に用があるのはホント。気にすることじゃねぇよ」
考えていることはお見通しとばかりに、真人はにやりと微笑んだ。
そっと肩を竦め、ちらりと悟の様子を伺うと、すでに熟睡状態に入っているのか規則正しい動きで胸が上下している。
それを確認して、腕を伸ばし真人の髪の毛に手を差し入れる。
おもしろそうに眉を吊り上げた真人の腕が、腰に絡んで、引き寄せられるまま当たり前のように唇を寄せた。
真人の唇はやっぱり甘い。
戯れのような口づけはいつだって甘い。
深くなればなるほど、全身に染み込んでくる。
甘すぎて、溶けそうだ。
「・・・・甘い」
合い間に囁かれたセリフにおもわず顔を上げると、真人は苦笑混じりに智紘の唇をぺろりと舐めた。
「・・・・いちご牛乳。おまえの口ん中甘すぎ」
苦手な味が口いっぱいに広がったせいか、真人はなんともいえない顔をしている。
はっきりいってオトコマエ台無しの顔。
智紘は笑いながら身体を離して、側にある真人の飲みかけのウーロン茶を差し出した。
ちょっと肩を竦めてそれを飲み干す真人の姿を眺めながら、智紘はフェンスに凭れかかった。
強い日差しの中で心なしか吹く風は気持ちがいい。
悟じゃないけど、眼を閉じると本当に眠れてしまいそうだ。
「・・・・そういえばよ」
「ん?」
思い出したかのように呟かれた言葉に、智紘は微かに閉じた眼をゆっくりと開いた。
「日曜はどうだった?」
「え?・・・・ああ」
そういえば・・・・。
大切なことを忘れていた。
ずっとふたりきりになるチャンスがなかったので、真人にはなにも伝えてはいなかったのだ。
祖父に会ったことを。
きっと気にしていてくれていたんだろう。
いままで触れられることを拒んでいた過去。
それに立ち向かうことを教えてくれたのは真人だ。
祖父の声、祖父の言葉。
そして、祖父のあたたかさ。
祖父に触れられた瞬間、浮かんだのが真人の顔だった。
きちんといっておかなければならない。
「大丈夫だよ」
ぽつりと呟いたセリフに、真人は眼を瞬かせる。
「俺はもう大丈夫だよ、真人」
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