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さっきの黒い煙が、小梅さんの家をうっすら覆っている。
「ちょっと増えとるな。」
コマが呟く。
悠真は近付けるだけ近くへ寄って、観察を始めたが、思うようなモノは見えなかった。
「誰もいないな。」
「付喪神もか?」
「うん。コマが言ったように、厄煙の元すらない。」
悠真は家から下がる。
「ほな、この厄煙は何や?」
「何も無いのが問題なんだよ。」
災いの元になるものがある訳ではない。
だが、普通は全く何もないなんてことも無いのである。
「たぶん、元々は何か、この家か小梅さんを守るものがあったんだ。それが無くなって、空白が出来た。」
付喪神がいた気配が残る折れた櫛。
何もない古い家。
守る者が留守の間に、良くないモノが付け込もうとしている。
「おや、悠真ちゃんじゃない?」
声をかけられて、ギョッとしたのはコマだ。
犬は普通しゃべらない。
「小梅さん、こんにちわ。」
悠真は満面の笑顔で振り返る。
犬はしゃべらないが、犬に話しかける人間は沢山いる。
コマの関西弁さえ聞かれていなければ、たぶん問題ない。
犬好きの心優しい少年にしか見えないはずである。
「コマちゃんのお散歩かい?」
「はい。そうなんです。」
大丈夫そうだ。
「えらいねぇ。嬉しいねぇ、コマちゃん。」
ニコニコしながら、頭を撫でる小梅さんに、コマは可愛らしい声で「わん」と鳴いた。
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