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「あの櫛は、今はお守りみたいなもんでね。死んだ主人の形見なの。」
時々咳をしながら、小梅さんが少しづつ話してくれる。
「お守り?じゃあ、使ってなかったんですか?」
「そうさね。いつも持ち歩いて、守ってもらってたんだよ。」
懐かしそうにそう言う。
「なのに、病院へ行く途中に転んでしまってねぇ。
その時に鞄から転がり落ちて、折れてしまったんだよ。」
「どこで転んだんですか?」
よく聴こえるように、ゆっくり悠真が訊く。
「天文坂の辺りだよ。大きな柿の木があってねぇ。」
どうやら、柿の木を見上げていて転んだらしい。
「それからだよ。咳が止まらなくてお医者に行っても悪いところはないし、なんだか気分も滅入るし。家の中も、心なしか暗くてねぇ。」
「それで祖父に?」
「ええ。折れた櫛は縁起が悪いと言うけど、手放すのは忍びなくて。正ちゃんに相談に行ったの。昔から、不思議なことが得意な人だったから。」
悠真とコマは顔を見合わせる。
「小梅さんありがとうございます。今はコマの散歩の途中だから、また持ってきますね。」
「無理はしないでおくれよ。」
「大丈夫ですよ。ぼくは祖父とよく似ていますから。」
悠真は愛想良くそう言って笑う。
「そうねぇ。正ちゃんの不思議な雰囲気に、悠真ちゃんはそっくりねぇ。」
そう懐かしそうに言う小梅さんと別れると、悠真とコマは天文坂へ向かった。
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