つくも

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「駄目か。」 犬の足型を背中に付けた櫛の付喪神がションボリ言う。 「悠真。」 「オレが踏んでも一緒だって。それより、なんで水は効かないんだろう?」 悠真とコマは、空になったペットボトルを見つめる。 「そんなもの、清水とは言わぬ。」 不意に上から降ってきた言葉に、一同は上を見上げた。 修験装束のカラスが、木の上から見下ろしている。 「どういう意味だ?」 悠真は木の上に向かって訊く。 「清水といったら、湧き水に決まっておろうが。」 カラスはそう言うと、さっさと自分の柿の木に戻ってしまう。 「湧き水なんて、こんな街中にあるんか?」 首を傾げるコマの隣で、悠真はハッと坂の上を見上げた。 「亀井戸!」 叫ぶ悠真を、コマと櫛が見上げる。 「小学生がゆうとったやつか?」 「そう。亀井戸は湧き水だよ。亀の口から水が出てる。」 「そら知っとるけど、まだ枯れんと湧いとるんか?」 コマはそう言いながらも、櫛の付喪神に袱紗に乗るように言う。 「とにかく見に行ってみよう。」 悠真は袱紗の四隅を一つに結ぶ。 コマがそれを咥えると、坂の上にある亀井戸に向かって歩きだした。
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