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目を開けると、そこには数時間前と変わらない景色があった。
少し陽は傾いただろうか。
窓から低く射し込む光が、時間の経過だけを教えている。
少年は、およそ自分とは似合わない大人びた書斎のデスクの前で体を伸ばした。
「起きたんやったら茶碗にお茶淹れたってくれ。やかましぃてかなわん。」
困り果てた様子で見上げてくるのは、狐のような白い犬。
「おい!小僧ども!茶はまだか!」
部屋の隅っこにある桐の箱が、カタカタと揺れながら叫んでいる。
少年はぼんやりしたまま立ち上がると、その箱を持ってきてデスクの上に置いた。
「箱に仕舞うな!」
フタを開けると、うぐいす色の道服に黒い利休帽を被った小さな老人が、たいそう立腹した様子で茶碗の中で胡座をかいている。
「茶碗がうるさいからだろ。」
少年は塗りの美しい茶碗を箱から取り出しながら、ため息と一緒にそう言った。
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