24人が本棚に入れています
本棚に追加
とは言っても、ただ遊びに来ているわけでもない。
「コマ、今日の分は?」
茶碗が大人しくなると、悠真はコマに訊く。
コマも心得ていたように、ローチェストの小さな引き出しの中から、朱い布の包みを咥えてきてデスクの上に置いた。
「これは?」
慶事用の朱い袱紗を開きながら、コマに訊く。
「小梅さんから預かったんや。ただ、正之助はその後すぐに体調崩してしもたから、そのままになってしもとる。今朝、散歩がてら小梅さんとこのぞいてきたんやけど、ちょっと急いたほうがええかもしれん。」
幾重にも畳まれた袱紗の中から出てきたのは、折れたつげ櫛だった。
よく手入れはされているが、年季の入ったもののようだ。
「真っ二つだな。」
そこにあるだけで、妙な違和感がある品物だ。
「待て。」
櫛を触ろうとした悠真を、茶碗の声が制止する。
「どうした?茶碗?」
文句を言いながらも、お茶の香りを楽しんでいた茶碗が袱紗の側までやってきた。
「折れ櫛には触らん方がええじゃろ。厄を貰うぞ。」
騒がしかった茶碗が、真面目な顔で言う。
「コマは大丈夫なのか?」
先ほど、この包みを咥えてきたコマを見るが、特に変わった様子はない。
「ボクらはコレと似たようなもんやから。」
コマと茶碗が視線を交わす。
「特に、この家はこやつのテリトリーじゃからな。ただし、人間のお前はやめといた方がええじゃろ。正之助にこれを相談した本人も分かっとるみたいやしな。」
朱い袱紗を指して茶碗が関心したように言った。
最初のコメントを投稿しよう!