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「この櫛は小梅さんが昔、旦那さんに貰ったもんらしい。ずっと大事にしてたんやけど、落としてしもたんやて。」
コマが、正之助の側で聞いていた話を教えてくれる。
「でも、この櫛ってそんなに簡単に割れるもんじゃないよな?」
昔から作られている工芸品で、確か耐久性にも優れていると聞いたことがある。
「いかにも。それ故に、櫛が折れるのは縁起が悪いと言われておる。人間の頭に使う道具じゃ。大事な所を手入れするものだけに、特にそう信じられてきたんじゃろう。」
「だから、他人に害が無いように、お祝いごとで使う袱紗で包んであるのか。」
茶碗がうなづく。
「効果の有無はさておき、考えた結果の気遣いじゃろな。」
悠真は、いつもニコニコしている、小柄な老夫人を思い出す。
「じゃあ、コマがこれは急くって言うってことは、小梅さんに何かあったのか?」
小梅さんはこの近所に住む正之助の茶飲み友達で、悠真もよく知っている。
「今のところは大したことないで。ちょっと咳き込むくらいはあるやろうけど。」
咳と言う言葉に、悠真は眉を寄せる。
「この櫛、付喪神が居たんじゃないか?」
触るなと言われた折れ櫛を、悠真はまじまじと観察しはじめた。
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