16.彼の優しさ

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泊まる…? 「食欲ないと思うけど、少しでも口に入れるだけで違うから」 彼はそう言って、飲料水やゼリー類が入った袋を無造作に差し出した。 私はそれを機械的に受け取る。 だけど、心の中は激しく揺れ動いていた。 泊まるだなんて、できない…。 だって、もしかしたら…。 意を決して、おそるおそる口を開く。 「あの…いろいろ助けてくれて本当にありがとう。 でも、大丈夫だから。今日は帰るね。 迷惑かけて、本当にごめんなさい」 大丈夫だと笑う私は、どこまで気丈に振る舞えば気が済むのだろう。 すぐに笑顔をつくる癖は、後から傷つかないよう自分を防護するため。 目を背けるために帰る選択をした私は、現実を知るのがとてつもなく怖かった。
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