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時計を見れば、午後10時。
もう少ししたら孤独の時間が俺を迎えに来る。
人の暖かさに飢えて、少しでもいい、人の暖かさに触れたいと渇望し作った彼女は音声を電気粒子に変換したその先の向こう側にいる。
「――おーい。生きてますかー」
「あぁ、生きてるよ」
生きてますか、と聞くのは少々物騒な気がしないでもない。
けれど彼女はそれを冗談めかして言うから、物騒さが半減、いやそれ以上に減る。
「まったく、大したもんだ」
「なに、それ笑 あたし、そんなすごいことしたかな笑」
ひとりでに落ちていた独り言を掬って反応してくれる。
穏やかな声色に救われて、俺の心も和やかになる。
癒しとは、こういうことか。
「いや… 本当に、ありがとな。」
「もう、ヘンなの。あたしも、ありがとう。」
時計を見ると、午後10時30分。
規則正しい生活を守っている彼女はそろそろ眠いと言い出すだろう。
孤独の時間が迎えに来るまで、あと30分。
「ね、そろそろ寝てもいいかな。23時にはお布団に入りたくて。」
いつもと同じ台詞。
「そうだな。」
「おやすみ」
「おやすみ」
穏やかな今日の時間はこれで終わり。
いっそ俺も、彼女に合わせて寝てしまおうか。
そうすればきっと、ずっと楽だ。
でも、そうはできない。…したくない。
孤独の時間が来るまでは嫌だ。
来てしまえば、夜中のしんとした空気に同化して自分が自分じゃなくなるような感覚になる。
その独特な雰囲気は不思議と落ち着いて、本来の俺はきっとこうなんだとさえ思える。
人の暖かさに触れることを夢見て憧れ、なんとかして叶えようとしても、叶えても、それは所詮俺の上辺だけが埋まっていて、本質的には何も埋まっちゃいないんだと。
夜の闇と深い青に塗られた俺と対峙する時間。
俺の他は誰もいない。
誰も来ちゃいけない。
俺の俺だけのサンクチュアリだ。
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