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日登の後ろについて行き、細い路地を抜け、階段を上がったり下がったり、トンネルを抜けて今にも崩れ落ちて私達を潰してしまいそうなビルの裏を回ると、看板も窓も何もない四角い建物が目の前に見えた。
周囲には僅かな街灯しかなく、建物も壁が黒く染められているため、闇に紛れてしまって非常に見つけ辛い。まるでドアだけがその場にポツンと建っているかのような錯覚を覚える。
そんな怪しい建物に日登は躊躇いもなくドアを開けて中に入っていく。普段の私ならば文句を言って踵を返しただろうが、ハロウィンの雰囲気もあってか何処か期待して後ろを付いていった。
中に入るとテーブルも椅子もなかった。向かいのカウンターの向こうにやけに毛深くてガタイの良いサングラスをかけた店主らしきおっさんが、椅子に座ってこちらを向いている。
一瞬怯んだものの日登が店主に耳打ちをすると、店主は裂けるのではないかと不安になるくらい口を大きく広げて笑い、カウンターの扉を開けてこっちにこいと手招きしてきた。
向かいからは見えなかったが、カウンターの内側には四角い穴が空いており、下に続く縄梯子が垂れ下がっていた。
「さあ、ここを降りた先に美味しいご飯が待っている!」
日登は頬を緩ませて私の肩を軽く叩いてきた。穴の中を覗くと真っ暗で底が見えない。一体どこまで降りるのだろうかと不安になり、帰りたいとも思ったのだが店主が私をじっと見つめている手前、帰るのは失礼かとも思い渋々降りて行く事にした。
私が数メートル程降りると、それに続いて日登も降りてきた。しばらく無言で降り続け、そろそろ店主には声が届かないだろうと日登に文句をぶつけた。
「おい、なんだこの店は! 本当にご飯なんてあるのか? あの店主も怖いし危ない店じゃないだろうな!」
「さっきの建物は店じゃなくて受付みたいなものだよ。僕みたいな怪物しか入れないの」
「私は仮装もしていないぞ」
「人間もある意味では怪物と変わらないじゃないか。でもここに入れる人間は毎年一人だけだから君はラッキーだよ。僕みたいな怪物の友達がいてよかったね」
「何が怪物だ。さっきのサングラスのおっさんは人間じゃないか」
「さっきの店主は狼男さ。月をまだ見てないから人間の姿でも不思議じゃないでしょ」
「屁理屈にしか聞こえないね!」
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