第1章

2/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「いらっしゃいませ」  店内はすごく綺麗で、まるでどこかのホテルのロビーのようだった。そして僕が店に入ってすぐに出迎えてくれたのは若い女の人だった。たぶん店の受付なのだろう。その女の人は身なりがきちんとされていて、制服はどこかのデパートの案内係みたいだった。  「あの、すみません。ここ睡眠銀行って書いてあったんですが、どういうことなんですか?」  僕は暇を持て余していて、街をブラついていた。そして見かけたのが、この睡眠銀行の看板。一度は怪しい店だと思い通り過ぎるも、あまりに暇だったので再び戻ってきた。  しばらく僕は、店の外から店の様子を窺っていた。僕が観察してた間に、数人の人間がその店の中に入っていった。年齢も性別もバラバラ。スーツをビッシっと決めている人もいれば、僕みたいなスウェット姿の人もいた。そして店に入って、ほんの数分で出ていく人もいれば、入ったっきり出てきてない人もいた。  僕はその店に入るかどうか思い悩んでいたが、スーツ姿の人より、僕みたいなラフな格好をしている人のほうが多く店に入っていたので、僕も思い切って店の中に入ってみた。  「睡眠銀行は、睡眠を預けれる銀行です」  僕を出迎えてくれた女性は、にこやかな笑顔でハキハキと言った。本当にデパートの案内係のような雰囲気だった。しかし、にこやかな笑顔で説明してくれたが、僕には言っている意味が分からなかった。僕の怪訝な表情を察してか、受付の女性は説明を続けた。  「この銀行は、ここで睡眠をしてもらい、その睡眠時間を保管することができます。しかし保管するにあたって、手数料として1時間につき10分の睡眠時間をこちらの銀行が頂きます」  受付の女性は、にこやかな笑顔を崩さず僕に話してくれた。面倒くさい表情など一切せず。そして説明はなおも続いた。  「例えば、5時間ここで眠ってもらいますと、こちらの銀行が50分の手数料を頂きます。お客様は4時間10分の睡眠を、当銀行に保管することになるのです。しかし気を付けてもらわないといけないのが、この銀行で眠っても、全然睡眠をとったことにはなりません」  僕は意味が分からず、話を訊き返した。  「眠ったことにならない?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!