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アマー氏は続ける。 「……世界広しと言えど、 インドほど駆け落ちにふさわしい場所はありません。 そこへ逃げ伸びることのできた二人は、 いかなる追っ手が迫ろうとも、 大いなる混沌と無秩序の中で、 その足跡を、 そして、 その存在をめぐる記憶さえも、 完全にかき消すことができます。 アントニオ・タブッキの『インド夜想曲』はお読みになりましたか?」 それって何っていうか、 つまりその……そう、 インド力! だよね。 ぼくがそう言って指を鳴らすと、 料理人用の白衣に身を包んだ、 褐色の肌の太った男が、 豆と米の粉を練って、 鉄板で薄く焼き上げたせんべいのようなものを小皿に盛って、 ぼくらのテーブルに現れた。 人なつっこそうな笑顔の、 気のいい店員だ。
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