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私たち、
もう終わりにしましょう、
とレイコさんが言う。
「これ以上、
無理だわ。
ダンナもうすうす感づいてきたみたいだし、子供も……」
午後の日差しは、
カフェテラスの天窓からゆるゆると差し込んで、
ぼくとレイコさんが向き合うテーブルを照らす。
その光の中で、
レイコさんは、
はーっと熱っぽい息をひとつ、
短く吐いて、
髪をかき上げ、
そして真っ赤に腫れた目を、
宙にさまよわせる。
ここのコーヒーは、
やっぱり違うね、
とぼくは言う。
「有機栽培の豆らしいね。
水にもこだわってて、
マスターが月に1ぺん、
秩父だかどこだかまで行って、
地元の企業組合がペットに詰めて売ってる沢の湧水か何かを、
仕入れてきてるんだってね……」
ねえあたし、
真面目に言ってるの。
いよいよレイコさんは、
身を乗り出してきて、
ハンカチでおさえた鼻をすする。
「それはあたしだって、
こんな風に終わりたくはないのよ。
でも……」
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