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「こ、これを上るの…」
マンションのてっぺんの壁に、むき出しで付いている梯子。それを登るのは、あの雨雲に呑み込まれる為の、生け贄の儀式みたいな気がした。
「む、無理だよ」
流石にこの台風、しかも暗闇の中、足が勝手に竦んでしまった。
「大丈夫だよ。気が付かない?」
最初、鈴木君の言っている事が分からなかったが、彼がフードを取って、顔を見せると、やっと気が付いた。
「や、やんでいるの、雨」
私も、フードを取って確かめる。今さっきまで、あんなに激しく降っていた雨が無くなっていた。そればかりか。
「風も、無いわ」
台風はもう行ってしまったの?
「登れる?」
私は、自分の脚をさすった。
「うん。大丈夫」
私が最初に登り、すぐ下に鈴木君が支えるように、付いてくれた。
私は上を見上げた。
梯子の上、塔屋の上の、さらに上の空に、
雲が切れてゆくのを見た。
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