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「信じられない」
たどり着いた塔屋の上は、遮る物が全く無い、右も左も、前も後ろも、全部が景色だった。
遠くのビルの明かりと街灯、人のいる証拠をそこに見つけ、少し安心した。
恐ろしい程のパノラマで、自分が空に浮いているようだ。
「上も、観てごらんよ」
登って来た、鈴木君が天を見上げて、言った。
「!」
驚きと一緒に息を飲み込む。
消え失せた雲の、代わりの空に、散りばめてあったのは、満天の星空だった。
私も沢山の星が煌く空くらい、見たことはある。ここに転校する前は、海の綺麗な田舎町にいたから。
それと比べても、見劣りしない、星の海が広がっていた。本当にここは東京なのだろうか、それとも、私は夢を見ているのか、この目を疑った。
おびただしい星々が、私を魅了する。心が捕らわれそうになり、ハッと我に返る。
なんで、ここにこんな、星空が?
さっきまでの嵐は、いったいどこに消えたの?
「台風はまだ、去っていないよ。
今ここは、台風の目の中に入っているんだ」
聞いたことがある。台風の目の中は、雨も風もやんで、晴れ間も見えるとか。本当にあるんだ。
「ドストライクで台風が、ここを通過してくれたおかげさ。さらには、周囲の停電も一役買ったね。星が、とても綺麗に見える。
オレも、こんなの初めて見たよ」
星を見上げたまま、鈴木君は嬉しそうに続けた。
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