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「鈴木君、ちょっといいかな」
机に突っ伏して寝ている、彼の肩に手を置いて、起こした。
「えっと…」
彼はゆっくりと、身体を起こして、無言で私を見ているだけだった。たぶん私の名前も、存在も知らないからだ。
私はなんで、鈴木君に声を掛けたのだろう。
「鈴木君、高輪台に住んでいるでしょ、駅で何度か見かけたの」
「あ、ああ…」
相槌のような返事だけ、言いたい事は分かっているけど、敢えて自己紹介はしなかった。
「私も同じ駅だから、一緒に帰っていい?」
こうして、私達二人は一緒に地下鉄に乗って帰路についた。
私は今まで、自ら積極的に、他人と接触する、という事をしたことが無かった。
話し掛けられれば、当然会話もするが、無理に話をするのは嫌いだった。どこか、冷めている自分がいた。
それは、引っ越しを繰り返していたからだろうか。
それなのに、今日はなぜだろう。彼と話がしたいと思ったのだ。
だから、少し勇気を出した自分に、正直驚いた。
朝とは違って、帰りの電車は空いている。他の高校生の話し声や笑い声も、自然に聞こえてくる。
「鈴木君、いつも学校で寝ているね」
私は、吊革につかまり、彼は、その隣で、鉄の棒につかまっている。並ぶとよく分かる、背が普通に高いことを知った。
「なんで寝ているの、夜更かしして勉強?」
その後は、無言のまま、私達は駅で別れた。
でもそれでいいと感じた。
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