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私のこの気持ちは、今の雲と同じだ。
鉛色に覆われた低い空を二人で見上げた。
「台風、逸れてくれないかな」
逸れたところで、この空が晴れるとは限らないのは、分かっていたが。前向きな言葉が欲しかった。
「今夜遅くに直撃らしい。東京を抜けるのは明け方だ」
お互い、もっと残念な事は、別にある。
ただ、このままサヨナラするのが、寂しかったのだ。
前向きに考えれば、この出会いは、私に初めての友達が出来た、奇跡、とも呼べる事だったのかもしれない。
1/17の奇跡?
鈴木君は、鼻で笑って言った。
クラスの男の子の人数だ。
私、出会いだけはもっとあります。ダテに転校を重ねてきていませんよ。
二人して笑った。
奇跡ってさ、そう言うものじゃないんじゃないかな。
なんか、数字では表せられないものだと思うよ。
鈴木君が言っていた言葉を思い出しながら、次第に強くなってきた、雨と風を、部屋の窓から見ていた。
転校は寂しくて、悲しい。それは別れがあるからだ。
いつもそれから、眼を逸らし、避けていたけれど、どうしても関わってしまう。だから、いつの間にか諦めていたんだ。
それに気づかせてくれた夜を、私は寝付けないでいた。
携帯電話が震えた。
鈴木君。
慌てて、通話にふれる。かつて無いほど、心音が高鳴った。
「もしもし」
「三橋、やっぱり起きていたか」
私は、訳が分からなかった。
「今から、君の家に迎えに行く」
ただ、驚いた。
「奇跡を観に行こう」
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