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「これ着て」
鈴木君が差し出した、レインコートの上下を着て、私達は嵐の中、走り出した。
外には人っ子一人無く、車も走っていない。
一瞬の隙に、レインコートのフードが暴風に持っていかれると、あっという間に、髪の毛がびしょびしょに濡れた。ぬるいシャワーのような雨が、容赦なく全身を打ち付ける。レインコートを着ていても、皮膚に雨粒の感触が痛い。
でも、私は怖く無かった。
例え、これが、地球最後の時だとしても、今なら平気だ。
鈴木君が何か叫んだけど、よく聞き取れなかった。でも、私は微笑んだ。
すると、私を見つめて、微笑み返してくれた。
「この、階段を上るの?」
それは、鉄格子に囲まれた、タワーマンションの外階段。避難用だろう、外からは入れないようだけど。
「鍵を拾ったんだ」
「え、このドアの?」
「ああ、29階の屋上まで行ける。拾った鍵は、ちゃんと届けたよ。だからこれは、コピーの鍵さ」
うわ、狡猾、ってか、大胆ね。
でも、そう言うところあるかな。授業中の居眠りも。思えばそうだ、鈴木君て。
「行こう」
普通に開いた鉄扉をくぐり。遥か上空の屋上へ。
そこには、暴風雨以外、何があるのだろうか。
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