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地上を見下ろすと、いつの間にか、建物や街並みが小さくなってきていた。
それとは逆に、天を覆い尽くす、鉛色の巨大な雨雲に近づいて行く。雨雲は物凄いスピードで蠢いて、手摺りを放せば、そこに吸い込まれてしまう錯覚に陥る。
そして、こんな所にいるのが、人に見つかってしまったらと。私は、どんどんと、心細くなっていった。
その時だった。
フッと階段室の照明が消えた。
「きゃあっ」
突如訪れた暗闇に、私は困惑した。
「停電だ」
格子の隙間からは、外の様子がよく分かる。遠くの方の大きなビルは、明かりがついていたが、この一帯全部、真っ暗になっていた。
「三橋、大丈夫か」
うっすらと見えた、鈴木君の差し出した手を、私は掴んだ。
「うん」
天空にかかる雨雲だけが、灰色と分かる暗闇を、私達は進んだ。
階段の頂上には、マンション内に続く扉があった。
「入るの?」
「いや、流石にそれはダメだろう」
確かに、謝って済む問題じゃなくなる。
だとすると、ここが、目的地なのだろうか。景色の殆どが、壁と扉と階段で遮られ、あまり見晴らしが良いとは言えなかった。
すると、鈴木君は指差した。扉の横の、屋上塔屋へと続く、猿梯子を。
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