4人が本棚に入れています
本棚に追加
道の先にヒロアキさんが立っていた。
息を切らしながらも、ヒロアキさんの姿を見つけて安堵した。しかし、どうもヒロアキさんの様子がおかしい。
「ヒロアキさん」
声をかけても反応がない。すぐそばまで近づいても、私の存在に気付いていないようだ。
ヒロアキさんの視線の先にはお墓があった。たぶん、いやきっと、千尋さんのお墓だ。そう理解したとき、私の中になにか黒いもやっとしたものがあった。
「ヒロ……」
肩にふれようとした瞬間、ヒロアキさんはぼそっと呟いた。
私は見てはいけないものを見たのかもしれない。聞いてはいけないことを聞いたのかもしれない。私はいったい、何をしているのだろうか。何をしていたのだろうか。
「チヒロ?」
ヒロアキさんの肩に自分のコートをかけて、彼はようやく私の存在に気付いた。
「風邪をひきます。家に戻りましょう」
ヒロアキさんの隣を、下をむいて歩いた。とてもヒロアキさんの顔を見られなかった。石を丸飲みにしたような、歯車にヘドロがこびりついたような、不可解な感覚があった。
千尋……。
そう呟いたヒロアキさんの言葉が頭から離れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!