3

2/5
前へ
/23ページ
次へ
 いつからだろう。  ヒロアキさんと食べる料理がおいしいと感じるようになったのは。  いつからだろう。  目にうつる景色が単なるデータではなくなったのは。  ヒロアキさんは風邪をひいて寝込んでしまった。2時間も寒空の下にいたのだから、仕方のないことだ。 「味がしない」  看病のために作ったおかゆ。味付けはいつも通りのはずなのに、舌が正常にはたらいていないみたい。  ふと見た窓の外の景色は美しい白銀の世界ではなく、死んだような灰色の世界。  私は間違っていたのかもしれない。  人間になりたかった。千尋さんになりたかった。千尋さんの真似をすれば、私は千尋さんになれると思っていた。千尋さんの代わりにヒロアキさんの傍にいられると思っていた。  しかし、それは大きな間違いだった。誰かが誰かの代わりになれるはずもなく、機械が人間になんてなれるわけがない。  いつからだろう。ヒロアキさんが私を見るとき、さみしそうな眼をするようになったのは。  私はどうしようもないくらいに、機械でしかなかったのだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加