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「なんだか眠れないの」
艶のある声で目が覚めた。そっと息を吹きかけられ、耳もとがこそばゆい。
枕もとのデジタル時計を見る。真夜中の三時をすぎたところだった。どうも手を握られているらしい。氷をさわっているような冷たさに、自然と身が縮こまる。冷え性の彼女はいつもこうやって僕を脅かす。慣れ親しんだ感覚。ゆえに、僕は微笑み、決まって彼女を抱き寄せていた。
けれど、今夜は違う。
「おやすみおやすみおやすみおやすみ!」
手を振りほどき、息継ぎもせず僕は連呼する。目を閉じる。
彼女はもう生きていない。胸にナイフが刺さったまま、風呂場で冷たくなっているのだから。
「そんな冷たいこと言わないで」
あまりにも冷たい唇が僕の頬にふれた。
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