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「その話はもう少ししてからって云ってるでしょ」
母が私から視線を逸らし、声を震わせて話を逸らせる。
意識が戻ってからずっとそう。
事故のこと、詳しく教えてくれない。
琢哉のことだって。
母だけじゃない。
医師や看護師だって私から琢哉のことを隠そうとする。
身体の回復と共に落ち着いてきた私が思いだしたのは。
琢哉とブライダルカウンターに訪れた帰り、事故に巻き込まれたってこと。
通りかかった、建設途中のビル横の道。
突然頭上から落ちてきた複数の鉄骨。
覚えてるのはそれだけ。
記憶の最後は、私の名前を叫ぶ琢哉の声、それさえも消し去ってしまう轟音、一瞬の静けさのあと、見ていたであろう女性の、鋭い悲鳴。
それからも、夢現のときにだけ琢哉に会った。
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