領主と奴隷

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 名はジンジャー。俺より一つ歳上で一年経っても里に戻ってこなかった近所のエルフだ。  てっきり人間界が気に入って戻ってこないと思っていたのに。そうであってほしいと思っていたのに……。  なぜジンジャーがメイド服を着せられているのだ。あんなヒラヒラで異様に短いスカートを履かされているのだ。  カチューシャなんかをつけているのだ。  男に媚びを売るような姿で挨拶なんぞさせられて……。  気持ち悪い。果てしなく気持ち悪かった。鳥肌が立つ。見てはいけないものを見てしまった嫌悪感で吐き気を覚える。 「エルフの奴隷ですか……」  御令嬢は渋い顔でそう呟いた。俺の反応を気にしているようにも思える。 「まるで精緻な人形のように美しいでしょう? 出入りの商人に見せられて一目で気に入って購入したのですよ。ほら、ジンジャー。挨拶をしなさい」 「『………………』」 「……もしかすると、彼女は喋ることができないのですか?」  御令嬢は一言も発さずに無表情でお辞儀をしたエルフのメイドに疑念を抱いたのか眉を顰める。 「如何にも。奴隷商によって設定された首輪の制限でしてね。契約の絶対条件として提示されたものです。感情表現にも一部規制がかけられています。なんでも呪文の詠唱を防ぐために必要な措置だとか。エルフは高位の術を操る者が多いからそのためでしょうな」 「……なるほど。ところで領主様はこちらのエルフをどこの商人からお買いになられたのでしょう?」
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