領主と奴隷

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 御令嬢がちょうど俺の気になっていたことを訊ねてくれた。しかしなぜ彼女がそれを知りたがる? もしや彼女もエルフの奴隷を……。 「おや、レグル嬢もエルフの奴隷に興味がおありですか? エルフの奴隷はその希少性から社交の場でも話の種になりますからな。」 「その商会の名は何と申しますの?」  御令嬢は愛想よく答える領主を受け流すように淡々と返す。  あまり奴隷に興味があるようには見えないのだが……。人は見た目によらないということなのか? 「『ヴィースマン商会』とか、あの男は名乗っておりました。市場に出回ることが少ない種族の奴隷を数多く揃えているそうで、なかなかのやり手だと思いますよ」 「知らない名ですね……。どこの街に店を構えているのでしょう? 貴重な種族を多く揃えていながら貴族に名が知れていないのは不思議ですね」 「それが店舗を持たない流れの商人のようでして。気まぐれで訪れた先でしか取り引きを行わないそうなので知名度がないのはそのせいでしょう。せっかくですから、次にやって来た時にはレグル嬢のことをお話しておきますよ」 「それはありがたいお話ですね」 「……そこでひとつ、お話があるのですが――」  領主は下種な笑いを浮かべて揉み手をしていた。御令嬢に取り入る口上が上手くいったと喜びを露わにしているようだった。  こちらからするとあまり御令嬢の感触が良いようには見えないんだが。まあそんなことはどうでもいい。  それより、もう我慢の限界だった。こんなエルフをアクセサリー感覚で語る会話を聞き続けるのは無理だ。  仲間が目の前で虐げられているのを見過ごすのは耐えられない。
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