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「拷問をするならすればいい。それでも私の意思は変わらん。さあ、やってみるがいい!」
「……お前は本気で救えない輩らしい」
領主の意固地さには呆れるしかない。
なんでこの場面で意地を張るんだよ。誇りみたいなのちらつかせてるんだよ。俺が悪人みたいな空気をだすんじゃない。
御令嬢陣営は見て見ぬフリ、ルドルフは他人事で面白おかしく見物するのみ。
誰もこの愚かな領主を守ろうとしない。誰も止める者はいない。……はずだった。
「ジンジャー? お前どうして……」
唯一、俺の前に立ちはだかったのは奴隷の首輪を嵌められた美貌のエルフだった。
領主を庇い、両腕を拡げて立ち塞がる同朋。俺はただ驚くしかない。
「『…………』」
感情のこもらない能面が首を左右に振る。領主に手を出すことは認めないと、そう俺に強く主張していた。
なぜだ? なぜジンジャーが身を挺して領主を守ろうとする? 自分を奴隷として囲う中年貴族のため立ち上がる?
「そこをどいてくれ、ジンジャー。そうしなければお前を解放できない」
「『…………』」
ジンジャーは変わらず首を振るだけ。どくつもりは皆無のようだった。
そういえば聞いたことがある。犯罪被害者が犯人と長時間過ごすと犯人に対して同情や好意を抱く事例があると。
「ジンジャーよ、お前の忠義に感謝するぞ……」
庇われている領主がふざけたことを抜かした。何を感慨深そうに語ってやがる。俺が睨むと領主のおっさんは速攻で目を逸らした。情けないおっさんだ。
「ジンジャー、どうしてもそいつを庇うのか?」
「『…………』」
首を縦に振って頷くメイドエルフ。その意思は確固たるもののようだった。参ったな。これでは話が進まない。
奴隷の首輪で忠誠心を植え付けられているのかもしれない。だが、仲間を力づくで押し退けるのは躊躇われる。
「仕方ありませんね……」
俺が行き詰っていると御令嬢が見かねたように立ち上がった。
何を言い出すつもりなのだろう。俺が彼女の次の言動に注意を向けていると、
「ここまで極まってしまえば致し方ありません。わたくしがこの町を訪れた本当の目的をお話しするほかないでしょう」
「ほ、本来の目的……!?」
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