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領主が目を剥いて恐れの対象を俺から御令嬢に変更させる。本当に人間というのは肩書きに弱い。どこの世界でも代わり映えしない法則である。
「わたくしは父上の命を受け、ここ数年で不自然に増加したエルフの奴隷の出元を調査するためにニッサンの町を訪れたのです」
「テ、テックアート伯爵の命で……!? 領地経営の見識を深める勉強にいらしたのではなかったのですか!?」」
「お嬢様がこんな規模の町へ学びに来るわけがないだろう。よく考えればわかることだ」
「こ、こんな……!?」
女騎士が容赦ない物言いはグッサリと領主に突き刺さっていた。おう、もうちょっと言い方を考えてやろうぜ……。町に罪はないんだからさ。
「……町の規模は置いておくとして」
御令嬢は咳払いをして話を進める。女騎士の言葉を否定しなかったところに彼女の本音が見えた気がした。
「グレン様、申し訳ありませんでした。万が一のことがあってはならないと安全な場所を提供するつもりで招待をしたのですが、まさか領主が加担していたとは……」
「善意のつもりだったんだろ? それだけわかれば十分だよ」
そもそも俺は危険性を承知で乗り込んできたのだから御令嬢が謝る必要などない。それでもこうして礼儀を尽くすのだから、彼女はきっといい人間なのだろう。
「そういってもらえると幸いです」
御令嬢の心底済まなさそうな顔を見て俺は頷く。これで合点がいった。御令嬢が奴隷商人に興味を示していたのは領主から情報を引き出すためだったのだ。
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