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さて、無事に奴隷の身分から解放されたジンジャーであったが……。
「グレン、ダメだよ! 領主様をいじめないで!」
開口一番、口にしたのはそんな言葉だった。
「いじめるなって、お前、こいつに奴隷にされてたんだろ?」
「確かに奴隷として僕は領主様に買われたけど。でも違うんだよ!」
ハスキーに響く女性的な声で矢継ぎ早に発せられるのは領主を庇う台詞ばかり。おかしいな、もう首輪は外れたはずなのに。
「奴隷の首輪って壊したら効力がなくなるもんじゃないのか?」
「普通はそのはずですが……」
御令嬢に訊ねるが、彼女も首を傾げている。実際、言語能力や感情の制限は解除されているのだ。
忠誠心だけが未だに根強く食い込んでいるというのか? それともこれはジンジャーの本心なのか? もっと深く聞き出す必要があるな……。
「お前は領主に酷い目に合わされていたわけじゃないのか?」
「酷い目なんてとんでもない! 領主様は僕を使用人として……ううん、それ以上に大事にしてくれたよ」
感情を失っていたときには気がつかなかったが、言われてみればジンジャーの顔色は実にいい。やつれた様子もないし、むしろ里にいた時より肉付きがよくなっているようにも見える。
少なくともエルフのヘルシーな食事よりかは充実した食生活を送っていたのだろう。
髪もさらさら、肌もつるんとしていて全身から石鹸の甘い香りを漂わせているし……。なかなかの好待遇で迎えられていたことが窺える。
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