閑話 エルフ里の幼馴染み

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「……耳寄りな情報だったけど、スカーレットはどこでそんな仕事の話を聞いたの?」  空回りしているとは微塵も思っていないエルフの美少女はさらなる前進のため、貪欲に見当違いな方向へ歩み続ける。 「アグリッサさんがね、人間の町に住んでた頃にその仕事をやってたんだって」  アグリッサとは里に住む妖艶な雰囲気を纏った美女エルフである。  そういえば彼女はグレンとたびたび二人だけの密談を交わしていた気がする。  きっと何かグレンを惹きつけるものを彼女は持っているんだ――(勘違いパry) 「あ、あたしちょっとアグリッサさんに話を聞いてくる!」 「あ、シルフィちゃーん!」  そうして彼女は元ジョウオウサマのアグリッサのもとでグレンを上手に虐める技術を学び始めた。 『ジョウオウサマとお呼び!』 『はい、もう一回! 今度は声に芯を通して、相手の身体に染み渡らせるように!』  きびきびとした態度で指導役のアグリッサが鞭を床に叩きつける。 『――女王様とお呼びィッ!』  穏やかなエルフの里に、美少女エルフの声がこだまする。  もっとグレンを痛めつける方法を身につけなきゃ……。  ぽっと出の人間風情に幼馴染みを奪われてなるものか。  平たい顔の種族に負けるわけにはいかない。  シルフィは密かな熱意をその胸に宿していた。  残念なことに、その熱意が間違った方向だと指摘する者は誰もいなかった。  むしろ里のエルフどもは一途な少女を微笑ましく思って背中を押していた。  悪意がないぶん、余計にろくでもないやつらである。 「次は鞭を振るいながらよッ!」 「ジョ、ジョウオウサマとお呼び――ッ!」  ――スパーンッ 「素晴らしいわッ!」 「シルフィちゃんのことをお義姉ちゃんって呼ぶ日も近いかもしれないね……」  木陰から練習を見守る妹エルフはしみじみ呟いた。  シルフィが里を出る日まで、あと五十六日。  シルフィの修業はまだまだ続く。
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