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「キメラが? なんだその話は」
もしかしてこいつって案外物知りなの?
は、一般常識? 俺が無知なだけだと?
そんなわけあるか。きっとエルフには伝わっていない話なんだよ。
そう言ったら白い目で見られた。リリンのくせに生意気だ。
「この馬車の人たちっていわゆる悪人だったんでしょ? だからありえない話じゃないと思うんだよね」
どうやらキメラというのはかつて国の治安維持や罪人の処刑に用いるために作られたものだったらしい。
役割を円滑に果たすため、キメラには罪人の匂いを嗅ぎ分ける能力が備えられ、さらにその匂いで食欲が増進する本能を植え付けられているのだとか。
「小さい頃はよく悪い子だとキメラに食われるぞーって怒られたりしたもんだよ」
日本でいうナマハゲみたいなもんか? キメラって民間伝承なの?
……話半分に聞いておくとして。実際のところ、どうなんだろ。
悪人を食わせるという発想で作られた生物というのはぞっとしない話だが、現状と照らし合わせると可能性は無きにしも非ず。
罪深き商人たちはキメラに食われ、奴隷は悪人ではないから見逃された……。
でも悪人だけを都合よく狙うならギルドで討伐隊なんか組む必要ないよな。あ、手を付けられないから処分されたんだっけ。
キメラの生態系とか知らんしな。領主は詳しかったりするだろうか。
あのおっさんは一応貴族だし、町娘のリリンより深い知識を持っているかもしれん。
帰ったら奴隷たちを預けるついでに訊いてみるか。
俺はコロコロ馬車を引っ張りながら考えた。
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