幼女と出立

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「今日は君が好きそうな肉があるんだ。干し肉だけど、食べてみないか?」 「いまはオナカいっぱいだからだいじょうぶ!」  領主から貰った豚の干し肉を取り出そうとすると笑顔で断られてしまった。  うーむ……心の中で密かに誓った約束を果たせると思ったんだが。 「飯を食ったばっかりだったのか?」 「うん、たくさんたべたよ! おいしかった!」  食後なら仕方ない。また別の機会を狙うことにしよう。  あれ? なんで俺は彼女に肉をくれてやることに固執してるんだっけ。 「ところで、君はどうしてこんなところにいるんだ?」  森に暮らすエルフと違い、人間の子供が一人で森に入るのは危険ではないか? そう思い訊いたのだが、 「ここにおいしいモノがいっぱいあったからきたの」 「ふむ?」  美味しいモノ? 森の果実とかだろうか。 「一人で危なくはないのか?」 「ううん。いつもヒトリだからしんぱいない」  当然のように言われる。  まあ、人間でも平気な子は平気なのかもしれないな。 「だが、今は森に危険な生き物が潜んでいるらしいぞ? 討伐されるまでは危ないからあまり近づかないほうがいい」 「ふーん? そうなのー?」  幼女はよく意味がわかっていないようだった。  こういうのは普通、親とかが注意しそうなもんだが……。  エルフでも危険な魔物が増えている時期はさすがに立ち入りを制限していた。 「ね、ねえ……お兄さん。その子、知り合いなの?」  俺の背後に隠れ続けていたリリンが恐る恐る顔を出して肉の幼女を見つめた。 「ああ、ニッサンの町にきた直後に少し話をしたんだ」 「そ、そうなんだ……じゃあ気のせいかな? でもあの目は……」  急に思案顔になってぶつぶつ呟き始めた。よくわからん女だな。というか、いつまでくっついてるつもりなんだコイツは?   まあ別にいいか。  俺は肉の幼女に向き直って声をかける。
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