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「一緒に町まで帰ろう。馬車に乗っていいぞ。せっかくだし、送ってやるよ」
「まちにかえる? なんで?」
「なんでって、ニッサンの町の住人なんだろ?」
「ちがうよ? このへんにはあそびにきただけ」
にこりと純真無垢な笑顔で幼女は言った。……は? 町の住人じゃない?
「ええと。君の親は行商か何かなのかな?」
「おやはいないよー。ひとりだよー」
あっけらかんと答える幼女。ううむ、悪いことを訊いてしまったか……。
「ずっとひとりー。ひとりでいろんなところをまわってるのー」
「な……」
こんな子供が一人で旅をしているだと? ひょっとして人間じゃないのか? エルフみたいに見た目と外見が見合わない種族とか?
しかし、その割には振る舞いが外見相応に幼い。俺があれこれ考えを巡らせていると、肉の幼女が高く手を挙げる。
「まちにはすんでないけど、せっかくだからついてく!」
彼女の顔には好奇心のようなものが含まれていた。いや、ただ町まで行くだけだから何かを期待されても困るんだけど……。
「わたしはリュキアっていうの。えるふさんのおなまえは?」
「リュキアか。俺はグレン。里の掟で世界を旅する者だ。それでこっちは――」
「……あたしはリリン。ニッサンの町の冒険者よ」
リリンは相変わらず表情が硬い。こんな子供相手に人見知りか?
そういう性格じゃないと思っていたんだが。
彼女はどうも肉の幼女に苦手意識を持っている感じがある。目がどうこうとか言ってたが、何か関係あるのだろうか?
気にしてもわからないことだし、とりあえず町に戻ろう。
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