831人が本棚に入れています
本棚に追加
/373ページ
「お……?」
快適な走路で、俺は進行方向の先で停まっている馬車があることに気が付く。
華美な装飾はないが、しっかりとした造り。
恐らく貴族かそれに類する金持ちが使用する馬車だろう。
そして、その馬車は武器を持った薄汚い身なりの男たちに囲まれていた。
男どもは盗賊だろうか? トラブルの香りがするぜ……。
「つか、どっかで見た展開だな……」
「どうしたのぉ……?」
眠たげな声を上げ、リュキアが目を覚ます。
「ああ、すまんが、ちょっと厄介なことになるかもしれない」
俺は徐々に速度を落としながら接近していった。
最悪の場合、平和な街道で再びトマト祭りが開催されることになる。
……ならないといいなぁ。
そろりそろりと馬車の物陰から覗き込む。
「うへへ、あのメイドはかなりの上物だぜ……」
「馬車に乗ってるのは貴族の令嬢らしいじゃねえか」
「楽しみで仕方ねえぜぇ……!」
盗賊は十人ほど。
一方、襲われている馬車の側は護衛の騎士とメイド服を着た女性の二人だけだった。
二人の会話に耳をそばだてる。
「やれやれ、本当に出てきちまうとはなぁ……」
「お嬢様の命令ですからね、皆殺しは避けるようにしましょう」
客観的に見れば多勢に無勢。襲われている側が圧倒的に劣勢である。
しかし、騎士とメイドは実に落ち着いたものだった。
「少し様子を見るべきか……?」
助っ人に入ることも考えていたが、彼らの態度を見るに勝算がありそうだ。
なら、ここで介入するのは盗賊をいたずらに刺激するだけかもしれない。
レグル嬢たちのときと同じく最初は静観してみよう。
最初のコメントを投稿しよう!